布団

妖精に乳首はねえ

全身編集者 白取千夏雄

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『全身編集者』って本を読んだ。

創作をする人へのリスペクトと励ましが詰まった本だ。

booth.pm

 

 

知らない人も多いと思うので簡単に説明すると、「劇画狼」って人が主宰の「おおかみ書房」っていうインディーズの出版が2019年5月から発売を開始した本。インディーズ出版なので一般流通してるわけじゃなくて、上のboothのリンクから買えます。

 

内容は、この劇画狼って人の師匠であり、『ガロ』の副編集長を務めた「白取千夏雄」という男の自伝だ。『ガロ』に入った流れやそこでの仕事、『ガロ』休刊騒動、病気や死との直面、劇画狼との邂逅と活動が書かれている。

 

 

 

俺は『ガロ』を知らない。1960年ごろ以降、漫画だけでなく日本中のサブカルだの表現全体を引っ張っていく、尖った雑誌だったらしい。名前くらいしか知らなくて、これまで読んだことはない。当然休刊騒動のことも、白取千夏雄さんのことも知らなかった。なんでよく知らない人の伝記を買ったのか、購入ボタンをクリックした時のことはいまいち覚えていない。なんかわからんけど購入して、家に届いて、読んでみたら、すげー面白かった。

 

 

 

すげー面白かったんですよ。ホント。白取さんの文章はとても読みやすくて、そしてすごく具体的なエピソードの積み重ねで、『ガロ』に関わっていた人たちのことが語られていく。白取さんの師匠であり、『ガロ』の編集長であり、『ガロ』そのものだった長井さんについて多くのページが割かれていて、「片っぽしかねえんだぞ!」だとか、唐沢商会に関する上から目線の謝罪とか、そういうエピソード群がすごくクッキリと人柄を表してて、読んでて素直に楽しいんだ。それと並行して、『ガロ』という雑誌に関わっていた編集人たちや白取さん自身の「編集とはなんぞや」という考えが、ドバドバ叩きつけられる。彼らの根底にある作家ファーストの精神は、はっきりとかっこいい。当然だけど、作品を生み出す作家はそれだけで編集よりも圧倒的に偉いんですよってハッキリ書いてある。

 

 

 

物を作る人、物語を作る人、とにかくなんでも、創作する人ってかっこいいよな〜という俺の心にあった漠然とした気持ちが、ものすごく理路整然と書かれていてよかった。作家の中で熟成して、放出された感性や想い、表現を肯定するというのが根本にある編集者たちの集まりだったんだ。『ガロ』って。かっこいいな。

 

 

 

 

さて、前半がこうした編集人としての魂のあり方や矜持についてのストーリーだとすると、後半からテイストはぐっと変わってくる。『ガロ』休刊騒動にまつわる諸々の事柄は、あとがきと相まってある種のミステリーかサスペンスを読んでるような気持ちになった。白取さん自身も書いている通り、この本は白取さんの主観によって書かれている。そこにさらにあとがきで、他の視点をきっちりと併記しているので偉いというか誠実な本だなと思う。この本を読めば『ガロ』休刊騒動の真実がわかる!というわけではないけれど、二つの視点から語られていなかった事件について記述しているという点だけでも、すごく価値のあることだと思う。

 

 

 

 

そして終盤、白取さん自身の闘病と連れ合いのやまだ紫さんの入院についての章では、さらにガラッと雰囲気が変わる。ただ、自身あるいは愛する人との死や離別にあっても、それでも白取さんの考えに常に表現だとか、作品のことだとか、それらが付随しているのはまさに全身編集者だなと思う。そして最後にひょっこりと現れる劇画狼。二人の会話の様子がおかしくって、えらく軽い気持ちになる。なんというか、やまだ紫さんとの別れの後にスッと現れた劇画狼という存在が、白取さんにとって救い?になったんじゃないかなと思う。文章の活力というか、テンションにそれが表れてる。とにかく微笑ましくて、こっちも嬉しくなるんです。

 

 

 

 

まとまりのない感想だけど、読み終わってもう一度読み返したくなる本だった。でももう一度読み返す前にこうして感想を書いたのは、やっぱりこの本をもっと多くの人が手に取ってほしいと思ったし、一般流通じゃなくてインディーズ出版でやってる以上は一人でもこの本についての感想を書くことがそれに繋がるんじゃないかなと思ったからです。なので読み終わった勢いでこれを書いています。

みんなも読もう!

 

booth.pm

 

 

 

なんかあと20冊くらいしかないらしいぜ!マジで急げ!